2025年5月21日

便潜血検査が陽性となった方へ
みなさん、大腸がん検診を受けられたことはありますか?
宮崎市でも40歳以上の方を対象に案内が送付されています。主に便潜血検査(2日法)が行われており、陽性の方は精密検査(主に全大腸内視鏡検査)が必要となります。
今回は、この便潜血検査についてもう少し詳しくお話ししたいと思います。
便潜血検査とは?
便潜血検査(免疫学的便潜血検査)は便に含まれる血液中のヘモグロビンを検出することで、消化管からの出血を確認する検査です。多くは2日法で2回便を取って検査を行います。消化管からの出血と言っても、胃や十二指腸から出血したヘモグロビンは便として出るまでに多くは消化分解するために検出されにくく、大腸からの出血を特異的検出すると言われています。
そのため、便潜血検査で陽性となった場合は大腸から出血がある可能性があり、すなわち出血をきたすような病態が潜んでいる可能性が疑われるために、より詳しい精密検査が必要となるわけです。
便潜血が2回中2回陽性だと大腸がんのリスクが高い!?
とはいえ、これを読んでいただいている方で「精密検査で大腸カメラしたけど何もなかった」という方もいらっしゃると思います。便潜血陽性者で実際に大腸の病気が見つかる頻度はどのくらいあるのでしょうか?
これについて、実際の数値をもとに年代、男女ごとに2日法で①2日とも陽性、②1日のみ陽性、③陰性の陽性反応的中度(実際に大腸に腫瘍があった確率)をシミュレーションした論文※1がありましたのでご紹介します。
※全大腸がんの陽性反応的中度
・40歳代男性 ①18.7% ②1.8% ③0.2%
・40歳代女性 ①24.6% ②1.6% ③0.1%
・50歳代男性 ①38.7% ②5.2% ③0.6%
・50歳代女性 ①20.8% ②1.8% ③0.1%
・60歳代男性 ①61.2% ②10.1% ③1.1%
・60歳代女性 ①50.4% ②4.8% ③0.4%
上記の通り、同じ便潜血検査陽性でも年齢とともに陽性反応的中度は上昇し、2回中2回とも陽性であった場合は格段にがんのリスクが高く、かつ進行がんの頻度が高くなるという結果が出ています。便潜血検査が2回とも陽性であった方は必ず大腸カメラによる精密検査を受けていただきたいと思います。
「私は痔があるから陽性だと思う」はキケン!?
さらに、興味深い内容として「痔疾患」による言及もありました。以下引用です。「便潜血陽性者において痔が悪いとする人の浸潤癌の確率は4.2%、症状ない人は2.4%、出血症状については出血がある人5.8%、ない人1.9%と、いずれも有症状者のほうでよりリスクが高い傾向であり、痔の症状と思っていたが実は癌による症状が含まれていた可能性がある」
私も、診療でよく「便潜血検査陽性だったが、自分は痔があるからそのせいだと思って検査しなかった。」など、自身で判断される方に出会います。この論文のデータが示すように、痔があったとしても、大腸に異常がないと判断する理由にはならず、むしろ大腸がんによる出血を痔の症状と勘違いしてしまっていた可能性まで示唆されています。ですので、痔疾患をお持ちの方で便潜血陽性となった場合も決して自己判断をせずに病院を受診してください。
2回陽性でなければ大腸カメラはしなくて良いの??
さて、便潜血検査が2回とも陽性であった方のがんのリスクは高く、大腸カメラが必要であることはご理解いただけたと思いますが、1回のみ陽性だった方は大腸カメラはしなくても良いのでしょうか?
今回紹介した論文によれば、確かに2回とも陽性であった方に比べて進行がんの可能性は低いですが、早期がんや10mm以上の腺腫での陽性反応的中度は便潜血陰性者に比較して高い結果となっています。以下にデータをご紹介します。
※癌+10mm以上腺腫の陽性反応的中度
・40歳代男性 ①39.3% ②8.4% ③1.6%
・40歳代女性 ①35.5% ②4.8% ③0.8%
・50歳代男性 ①63.8% ②17.9% ③3.7%
・50歳代女性 ①36.8% ②6.6% ③1.2%
・60歳代男性 ①79.5% ②25.5% ③5.3%
・60歳代女性 ①63.5% ②11.5% ③1.9%
ちなみに、腺腫については当院のホームページでも紹介をしていますが、良性の腫瘍性ポリープの事で、大腸がんの前がん病変と言われています。
これは、サイズが大きくなるにつれてがん化のリスクが高まる事が分かっており、本邦においてはサイズ径5mm未満で約0.4%、径5mm~10mm未満で約3.4%、径10mm~15mm未満で約12%、25mm~30mm未満で約32%のがん化率を有すると言われています。
大腸がんは早期発見・早期治療が重要なのはもちろんのこと、がん化リスクのあるポリープ(腺腫)をがんになる前に適切に切除することで、大腸がんによる死亡率を低下させることが研究の結果で分かっています。
大腸がん予防の観点からも便潜血検査で陽性だった方の二次精査(大腸カメラ)の必要性がお分かりいただけるかと思います。
40歳をすぎたら大腸がん検診を受けましょう
いかがでしたでしょうか。
日本では米国と比較して大腸がん検診受診率が低く(米国約70%、日本約20%)、さらに便潜血陽性者の60%程度しか精密検査としての大腸カメラを受けていないと言われています。早期大腸癌の多くは内視鏡治療で根治できますし、進行癌でもより早期に診断できれば、手術のみで完治可能です。是非、大腸がん検診を積極的に受診し、陽性となった方は必ず大腸カメラでの精密検査を受けていただければと思います※2。
大腸がん検診の重要性と、大腸カメラの必要性が少しでも皆さんに届けば幸いです。
※1大腸内視鏡検診の成績を用いた、便潜血検査陽性反応的中度推定のシミュレーション:日本消化器がん検診学会雑誌 Vol.55(5)Sep.2017
※2一般社団法人日本大腸肛門病学会より一部引用