血便について

原因

血便の原因はさまざまですが、年齢や性別、発症の経過、排便の性状、その他症状の有無などの情報で、原因をある程度絞り込むことができます。

• 赤色の血便で腹痛を伴う場合：潰瘍性大腸炎（直腸炎型）、虚血性大腸炎など
• 赤色の血便で腹痛を伴わない場合：痔、がん(直腸がんなど)、憩室出血など
• 長期間続く血便の場合：痔、大腸がん、潰瘍性大腸炎、など
• 下痢や腹痛、発熱等を伴う血便の場合：感染性腸炎、虚血性大腸炎、薬剤性腸炎など

出血の程度や全身状態（血圧や脈など）を確認し、緊急性を判断します。腹部の診察に加えて、必要があれば直腸診といって肛門から指を挿入し、直腸や肛門の病変の有無・血便の性状を確認します。血液検査で貧血や炎症の有無をみたり、感染性腸炎が疑われる場合には便の培養検査を行ったりします。
下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)は、血便の原因となる多くの大腸の病気を診断することが可能な検査です。大腸憩室出血などで出血している部位が同定できた場合には、内視鏡検査中に止血の処置を行うこともあります。
また、大腸カメラで血便の原因が分からない場合には、腹部CT検査やカプセル内視鏡検査・小腸カメラで調べることもあります。

治療

感染性腸炎や虚血性大腸炎の場合、自然経過で改善することが多いです。
痔の場合はまずは薬による保存的加療と生活習慣(排便習慣)の見直しを行います。それでも改善しない場合や元から戻らないような大きな痔の場合は手術を検討します。
潰瘍性大腸炎やクローン病は確実な診断と、適切な治療を継続して行えば、多くの方が日常生活に困ることなく過ごすことができるようになります。

感染性腸炎

急に腹痛や発熱が起こり、下痢便に血液が混じるようになった場合には感染性腸炎を鑑別する必要があります。血便を生じることがある感染性腸炎は、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌など一部の細菌の感染によるものです。ノロウイルスなどによるウイルス性腸炎では、血便は認めません。
症状の経過や便の培養検査などで診断を行います。

虚血性大腸炎

虚血性大腸炎とは、大腸への血流が悪くなり粘膜が循環障害（虚血）を起こして発症する病気です。突然の腹痛（とくに左下腹部）の後に下痢、血便などが起こるのが特徴です。
糖尿病や高脂血症、高血圧などに伴って起こる動脈硬化に加えて、便秘による腸管内圧の上昇や、ストレス、生活習慣の乱れなど、血管側の要因と腸管側の要因などが複雑に関与して発症すると言われています。
典型的な症状の方は問診だけでも診断が可能ですが、必要に応じて大腸カメラで診断を確定します。多くの方は、安静にしていれば自然経過で改善します。

痔

痔による血便は肛門からの出血のため鮮やかな赤色で、便の表面に少量の血がついたり、便が出た後にポタポタ落ちたり、お尻を拭いペーパーに血が付いたりします。出血の量はさまざまで、便器が真っ赤になるほどたくさん出ることもあります。
痔には痔核（いぼ痔）と裂肛（切れ痔）があります。いぼ痔は、排便の際に強くいきむことなどによって肛門の血管がうっ血してこぶ状に膨らんだ状態で、肛門の内側にできて痛みを感じにくい内痔核と、外側の皮膚の部分に膨らみができて痛みを伴う外痔核に分けられます。切れ痔は、かたい便が出た時などに肛門が切れてしまった状態で、痛みを伴います。

大腸がん

がん統計2023によると、大腸がんはすべてのがんの中で罹患数は男女ともに第2位、死亡数は女性第１位、男性第２位とされ、治療を受けている患者数も年々増加傾向にあります。大腸がんは早期の段階では自覚症状がほとんどありませんが、進行すると症状が出ることが多くなります。代表的な症状として血便、便秘や下痢を繰り返す、便が細くなる、残便感、お腹の痛み、お腹が張る、体重が減るとなどがあります。
直腸がんなど、肛門に近いがんでは、便に赤い血が付着するといった痔と同じような症状である場合も多く注意が必要です。早期に発見できれば根治の可能性も高まりますので、上記の症状が気になる方は、お早目に内視鏡検査(大腸カメラ)をお受けください。

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は20〜30歳代の若い方を中心に発症する大腸に慢性の炎症を起こす病気ですが中高年の方にも発症します。血便、下痢、腹痛、発熱など炎症の程度と範囲によってさまざまな症状がみられます。この病気は、直腸（肛門付近）から炎症が起き、口側の大腸に連続的に広がる性質があることで、多くの方で粘液が混じる血便を認めます。
炎症の範囲によっては、腹痛や下痢はなく便に赤い血が付くだけという、痔とほとんど同じ症状である場合も少なくありません。

クローン病

クローン病は10〜20歳代の若い方を中心に発症する小腸と大腸を中心とした消化管に慢性の炎症を起こす病気で、腹痛や下痢、発熱、体重減少、肛門痛などの症状がみられます。血便はUCほど多くは認めませんが、深い潰瘍ができるために時として大量に出血することがあります。

大腸憩室出血

大腸憩室とは、食生活の偏りや便通異常などで腸管内圧が上昇することで大腸の壁が外側に飛び出してできる袋状のくぼみです。憩室はあっても多くは無症状ですが、時に出血や炎症を起こします。
大腸憩室出血はお腹の痛みをともなわない大量の血便が特徴で、突然鮮やかな血便または赤黒い血便が見られます。憩室出血の多くは自然に止血されますが、輸血が必要になるほどの大量出血を起こしたり、繰り返し出血を起こしたりすることもあるため、注意が必要です。出血している憩室を特定できた場合には内視鏡下で止血処置を行いますが、止血が困難な場合は血管塞栓術や外科切除を行うこともあります。

抗生物質起因性腸炎（急性出血性大腸炎）

抗生物質を服用中に下痢・腹痛と共に血便が出ることがあります。ペニシリン系の抗生物質が原因となることが多く、ペニシリンを含むピロリ菌の除菌治療中にも0.4%程度の頻度で発生することがあります。抗生剤の服用を中止することで軽快します。