胃痛・胃もたれとは

原因

胃痛や胃もたれの原因は多岐にわたります。まずは上部消化管内視鏡検査（胃カメラ）を受けて、食道・胃・十二指腸に異常があるかどうかを見ることが重要です。必要に応じて、血液検査や超音波検査、CT検査を追加して原因の検索を行います。

治療

胃酸が原因で症状が出ている場合は、制酸剤(胃酸を抑える薬)が有効です。また、胃の動きが落ちている場合には消化管機能改善薬や漢方薬が有効とされています。
また、これらの局所に対する薬(制酸剤や胃粘膜保護薬、消化管運動機能改善薬など)で改善が得られない場合は一部の抗不安薬や抗うつ薬が有効なこともあります。また、ヘリコバクターピロリの感染による慢性胃炎が確認された場合は除菌治療が推奨されます。

機能性ディスペプシア（FD：functional dyspepsia）

胃痛や胃もたれの原因として、今最も多いのが機能性ディスペプシアです。ディスペプシアとは、胃の痛みやもたれなど不快なお腹の症状全般を指す医学用語です。この病気の方は、胃痛や胃もたれの症状が続いているのに、胃カメラを受けても原因となるような大きな異常が見つかりません。
「機能性」という名前の通り、このような患者様で問題なのは、胃の動きが悪くなっている、胃酸の刺激に対して知覚過敏が起こっているといった胃の「機能」なのです。これが、胃カメラの「見た目」には何の異常が無くても、さまざまな症状が現れる理由です。食べすぎや飲みすぎ、ストレスなどのちょっとしたことがきっかけで起こり、症状に波がある（良くなったり悪くなったりする）のも特徴です。

治療について

消化管運動機能改善薬や、胃酸の分泌を抑える酸分泌抑制薬を使用し、胃もたれや胃痛の症状の緩和を目指します。また、漢方薬が有効な場合もあります。
これらの治療で改善が得られない場合は、抗不安薬や抗うつ薬などを併用して治療を行います。
FDは再発を繰り返すことがあるため、薬物による治療だけでなく、生活習慣や食習慣の乱れを正すこと、ストレスをうまく発散することなど、症状が起きるきっかけを減らす努力をすることも大切です。

胃・十二指腸潰瘍

胃や十二指腸の粘膜が胃酸によって深く傷ついた状態です。十二指腸潰瘍では空腹時や夜間に、胃潰瘍では食後に胃痛を感じることが多く、潰瘍部分から出血すると吐血(血を吐くこと)や真っ黒の便がみられます。また、潰瘍部分から穿孔（胃・十二指腸の壁に穴があくこと)して激しい痛みを起こしたりする場合もあります。
ヘリコバクターピロリ菌感染が潰瘍発生の主な原因といわれており、ピロリ菌の除菌治療が進み感染率が減ったことで胃・十二指腸潰瘍の患者数は年々少なくなってきています。
ただし、原因はピロリ菌だけでなく、痛み止めの薬（非ステロイド性抗炎症薬）などによって起きる薬剤性の潰瘍もあるため、注意が必要です

治療について

痛み止めの薬（非ステロイド性抗炎症薬）などによって起きた薬剤性の潰瘍の場合は、原因となった薬剤の中止が最優先です。中止が難しい場合には、酸分泌抑制剤などで治療を行います。

急性胃炎

急な胃の粘膜の炎症によって、胃の痛みや不快感、吐き気などが起こります。精神的・身体的なストレス、解熱鎮痛薬などの薬剤、香辛料や高濃度のアルコールなど刺激が強い飲食物、食物アレルギーや食中毒、細菌感染、ウイルス感染、アニサキスと呼ばれる寄生虫が胃壁に刺入(しにゅう)することなどが原因となります。多くは数日で治癒しますが、アニサキスによる急性胃炎(胃アニサキス症)では、内視鏡検査(胃カメラ)でアニサキス虫体を除去することもあります。
また、胃粘膜の広い範囲に浮腫(腫れ)やびらん、潰瘍、出血を認めるものは、急性胃粘膜病変（AGML）と呼びます。

治療について

原因を取り除き、消化の良い食べ物などで胃を安静に保つことで多くは改善します。症状に応じて胃酸の分泌を抑える酸分泌抑制剤、胃の粘膜を保護する薬などを用います。

慢性胃炎

胃粘膜の炎症が長期間続いている状態で、主な原因はピロリ菌の感染です。胃痛や胃もたれの症状で内視鏡検査（胃カメラ）を受け、慢性胃炎と診断されることももちろんありますが、症状がまったく無い方が検診で胃カメラを受けた際にも慢性胃炎はよく見つかります。
つまり、胃に炎症があっても症状がないことも多く、逆に機能性ディスペプシアのように胃に炎症がまったくなくても症状があることから、最近では胃の炎症と胃の症状は必ずしも関連しないと考えられるようになってきました。

治療について

ヘリコバクターピロリ菌の感染を認めた場合は、無症状であっても将来の胃がんや胃潰瘍の発生を予防するために除菌治療が推奨されます。
胃痛や胃もたれなどの症状がある場合にも、まず除菌治療を行います。ピロリ菌の除菌後に症状が良くなった場合には、ピロリ菌の感染による慢性胃炎が胃の不調を引き起こしていたと判断されるため「H.pylori関連ディスペプシア」という診断名が付きます。
逆に、除菌後にも症状が続く場合には、ピロリ菌の感染による慢性胃炎と胃の症状に関連が無いと判断されるため、機能性ディスペプシアに準じて治療を行います。

胃がん

胃がん発生数は世界全体の約3/4をアジアが占めており、そのうちの約8割が日本を含む東アジアからの発症です。日本において胃がんの死亡者数は過去30年間の長きにわたり、年間約5万人でしたが、最近は急に減少傾向であり2023年で約3万8000人となっています。この要因はピロリ菌の除菌治療に加えて、除菌の保険診療の際に必須である内視鏡検査(胃カメラ)による、早期胃がんの発見と近年の内視鏡治療の進歩によるところが大きいと考えられています。
早期胃がんは自覚症状が殆どなく、内視鏡検査（胃カメラ）を受けて偶然に発見されることが多いです。対して進行胃がんは痛みや不快感、吐き気や食欲不振、貧血や血便、体重減少などの症状がみられることがあります。

治療について

胃がんの治療には「内視鏡治療」、「外科治療」、「薬物(化学)療法（抗がん剤治療）」などがあり、がんの進行度（ステージ）に応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、よく話し合ったうえで決定します。遠隔臓器への転移がなく、がんの深さが浅い場合は、内視鏡治療（内視鏡的切除）が中心です。がんが深い場合は、手術（外科治療）を検討します。手術後には、切除した病変の精密検査を行い、必要に応じて薬物療法が行われることがあります。遠隔臓器への転移がある場合には、状況によって、薬物療法などの治療法を検討します。